インターネット広告30年の歴史を一つの「物語」に
本日、インターネット広告30年の歴史を綴った拙著『インターネット広告創世記 Googleが切り拓いたデジタル広告革命』(11月発売予定)の書影がAmazonにて公開されました。
本書は、約30年にわたるインターネット広告の進化を、技術とビジネスモデルの変遷から以下の時代に区分し、当事者たちの証言をもとに一つの「物語」として再構成した歴史ノンフィクションです。
第1部:インターネット登場前夜。「大手総合広告代理店」がマスコミ四媒体の広告枠を寡占し、人の手による中央集権的な管理が行われていた伝統的な広告業界の構造の様子。
第2部:インターネット広告の幕開け。「メディアレップ」(広告の卸売業)の誕生と新興インターネット専業広告代理店の台頭、そして手作業でのバナー広告管理から始まった試行錯誤の時代。
第3部:黒船の襲来。Googleとオーバーチュアが日本へ上陸し、Yahoo! JAPANの巨大なトラフィックを二分する前代未聞のA/Bテストを経て、インターネット広告が「予約型」から「運用型」へと劇的に変わるまでの熾烈な覇権争い。
第4部:新時代の幕開けと次世代への伝播。スマートフォンの登場やGoogleによる米ダブルクリックの買収を起爆剤に、市場は爆発的な成長期へ。さらに、GoogleのDNAを受け継ぐ人材がFacebookやTwitter(現X)へと渡り、その成功哲学を次世代プラットフォームへと伝播させていった時代。
最終的に本書は、2021年にインターネット広告がマスコミ四媒体の市場規模を追い抜くまでの歴史を描き出します。
血の通った「大河ドラマ」として歴史を再構成
原稿を読み返してあらためて思うのは、本作の骨格を決定づけたのは、監修者であり物語の主人公でもある佐藤康夫さんの「赤裸々な語り」だったということです。日本法人の立ち上げから間もないグーグルで、日本で最初に「Google広告」(当時は「AdWords」)を販売した際の責任者という立場でありながら、若かりし頃の「青さ」すら包み隠さず明かしてくださった熱量に引き込まれ、気がつけば私は、原稿の中で佐藤さんの一人称を「私」ではなく「僕」と綴っていました。その言葉の温もりが、本書をただの無機質な歴史解説書ではなく、血の通った大河ドラマのような「物語」へと昇華させてくれたのだと感じています。そして、佐藤さんの語り口が呼び水となり、続く登場人物の皆様からも驚くほどリアルなエピソードをご提供いただきました。貴重な証言をお寄せいただいた皆様には、この場を借りて心より御礼申し上げます。
本書がこうして日の目を見ることができるのは、ひとえにインプレスの編集者・今村享嗣さんのお力添えあってのことです。まだ輪郭すら曖昧だった企画に温かく耳を傾け、『Web担当者Forum』での連載から書籍化に至るまでの約三年間、常に伴走して道筋を照らし続けてくださった今村さんには、感謝の念に堪えません。
500ページを超える熱量のこもった本作は、現在も最後のブラッシュアップを重ねています。今村さんのプロの視点が入ることで文章は格段に研ぎ澄まされ、当時の熱気や息遣いまでもが鮮やかに伝わる仕上がりになりつつあります。『Web担当者Forum』で連載された時とはまたひと味違う、書籍ならではの縦書きによる没入感も味わっていただきたいポイントです。とりわけ、Yahoo! JAPANを巡るグーグルとオーバーチュアの直接対決は、ページをめくる手が止まらなくなるほどの手に汗握る攻防として描き出せたと自負しています。
2007年のGoogleは一般的には無名の会社だった
約20年前、私はただ「Googleが好きだ」という思いだけでインターネット広告の世界へ飛び込みました。元々は2005年にニューヨークで語学留学していた際、まだ日本ではまったく普及していなかったiPodに出会い、強い衝撃を受けたことがすべての始まりでした。そこから一気にITへの興味が湧き、帰国後は貪るように最新テクノロジーに触れる中で、いつしかGoogleという存在に魅了され、すっかりのめり込んでいきました。つまり、最初から「広告業界で活躍したい」といった明確な目的意識があったわけではまったくありませんでした。
今では信じられないかもしれませんが、そもそも私が就職活動をしていた2007年当時に、まだ前例のない日本法人の新卒一期生としてGoogleに飛び込むということは、周囲の大人たちから見れば「狂気の沙汰」だったかもしれません。ライブドア事件の記憶も生々しく、ネット企業に対する世間の目は冷ややかそのもの。そして、当時のGoogleといえば、領収書の宛名を頼んでも幾度となく聞き返されるほど、世間一般にはほぼ無名な存在でした。ところがその一方で、Googleニュースで新聞社を、YouTube買収でテレビ局や電通を、BookSearchで出版界を次々と敵に回し、既存メディアからは「既得権益を破壊する黒船」として猛烈に警戒されていた時代でもあったのです。
今のGoogleが「海軍」なら、当時の私たちは「海賊」だった
今のGoogleにいる人たちが、勝敗が決したプラットフォームを動かす優秀なエリート達による「海軍」だとするならば、当時の私たちは間違いなく、日本社会の既得権益に果敢に突っ込んでいく「海賊」でした。既存のメディアだけでなく、インターネットの中でさえも、絶対王者であったYahoo! JAPANの巨大な背中を必死に追いかける挑戦者に過ぎなかったのです。そんな四面楚歌の逆風の中、「未来は絶対にこっちだ」という己の直感だけで飛び込むことができたのは、今振り返ると、若さゆえの無知だったからとしか言いようがありません。
外からの風が強烈だった分、当時のグーグル社内の結束は並外れて固いものでした。佐藤さんと私がグーグルで共に過ごしたのはわずか一年半に過ぎませんが、それでもこうして20年ものお付き合いが続いているのは、あの荒波に共に立ち向かったという連帯感がそうさせているのだと感じます。
文化人との衝突。葛藤の中で信じたインターネットの未来
元々は、小説や映画を愛するただの文学青年だった私にとって、学生時代の思い出に深く刻まれている谷川俊太郎さんがBookSearch反対の急先鋒となったり、知人づてに「東野圭吾さんがBookSearchに怒っている」と耳にした時は、胸が引き裂かれるような思いでした。それでも、既存の文化と衝突しながらも、インターネットが切り拓く「誰もが情報を発信でき、アクセスできる未来」の可能性を私は信じていました。そして、その新しい情報社会を持続可能なものにする裏方の基盤こそが「インターネット広告」なのだと心に決め、葛藤を抱えながらも目の前の実務に食らいついてきました。
インターネット広告版の『坂の上の雲』
あれから20年の歳月が流れました。20年前に私が思い描いていた未来は、もはやあらかた現実のものになったと感じています。同時に、広告の右も左も分からなかった私が、インターネット広告の最前線で揉まれ、今ではその複雑なエコシステムを自分自身の言葉で語れるまでになりました。そして今、業界を黎明期から牽引してこられたレジェンドの方々と同じ目線で言葉を交わし、想像を絶する逆風の中で日本で最初にGoogle広告を立ち上げた新卒時代の恩師・佐藤さんと共に、こうして一冊の本を世に送り出そうとしています。これほど恵まれた幸せな巡り合わせは他に考えられません。
本書は、インターネット広告30年の歴史の記録であると同時に、私の20年にわたるキャリアの集大成でもあります。何もない荒野からデジタルの未来を見上げ、新しい時代を築こうと奔走した若者たちの群像劇は、さながらインターネット広告版の『坂の上の雲』のような趣きを持っています。一つの「物語」としても存分に楽しんでいただける内容に仕上がっておりますので、業界の内外を問わず、ぜひ多くの方にお手に取っていただけると嬉しいです。

